コラム

2016-09-21

◆「始末書を書け」と命じることはできるか

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日々、相談を受けている中で、多くの事案で登場するものの一つに「始末書」があります。「始末書」は、雇用社会や雇用の現場では、言葉としては当たり前のように飛び交い、企業は労働者に対し、「始末書を書け」と言っている場面が多いようです。

労働者のほうは、「始末書を書け」と言われても、あからさまに反発をしてもまずいと思いあっさり応じてしまう場合、「なぜ始末書を書かなければならないのか」と自問自答して、書く理由がない場合は、拒絶する場合もたくさんあります。「始末書を書け」-これに「応じなければいけないのか」「断ってもよいのか」などの相談も多く受けることから、「始末書を書け」の基本を裁判例に基づき整理しておきたいと思います。

懲戒処分規定に始末書を書くことの定めがなければいけない


企業側が発する、「始末書を書け」という言葉は、労働者が聞けば、企業の命令と受け止めるのは無理からぬことと思えます。一方、企業側も、あたりまえの業務命令として「始末書を書け」となんのためらいもなく発しているようです。企業側の命令だから労働者はしたがわなければいけないと考えている企業も多いようです。労務の専門家の中にもそう考えているケースが多くあります。

始末書を書くことは、就業規則の懲戒規定として取り決めがされているのが通常です。まず、企業も労働者も、この点を就業規則などで日ごろから確認をされたほうがいいでしょう。これまで、多くの裁判例は、懲戒規定に規定されていなければ始末書を書けと命じることはできないと説示しています(丸十東鋼運輸倉庫事件・大阪地堺支決昭53・1・11労判304号61頁、丸住製紙事件・高松高判昭46・2・25労判139号72頁〔ダ〕、品川工業事件・大阪地決昭53・3・17労判298号66頁など)。

つまり、企業の始末書の記載・提出を意味する言葉は、懲戒処分としての趣旨になります。これは、一般的な例として、譴責(けんせき)処分では、「始末書をとり将来を戒める」などのように規定されています(「戒告」は始末書提出を伴わない処分と考えられています)。減給の制裁でも始末書をとることが規定されている場合が多いと思われます。ぜひ、懲戒規定を確認されることをお勧めします。

実際、丸十東鋼運輸倉庫事件では、始末書提出の意義について次のように述べています。「・・始末書提出というのは、被処分者に、自らその非違行為を確認し使用者に対して謝罪の意思を表明すると共に将来非違行為を繰り返さないことを誓約する旨を書面に認めさせて提出させるもの」です。その意味で、労働者に、懲戒処分の対象となる非違行為があることが前提になると考えられます。実務上も踏まえるべきものと考えます。


始末書命令に背いてもいいのか


次に、「始末書を書く」ことが懲戒規定に定められている場合、「始末書を書け」と言われたら労働者は書かなければ、懲戒規定に反することになるのかということが問題になります。始末書を書くことは、あくまで懲戒処分としてなので、懲戒理由に該当する行為がないのであれば、「始末書を書け」と言われても、書く必要性はないことになります。ただし、懲戒処分に該当する行為の有無は、労使で主張が異なることが多く紛争になるでしょう。

それは、「命令に背くことにはならないのか」-多くの相談者の疑問もこの点に集中しています。冒頭触れたように、労働者が企業から言われた場合は、命令だと受け止めるのも無理からぬことです。しかし、「始末書を書く」ことは、懲戒理由に該当したときの懲戒処分なので、懲戒処分は、そもそも業務命令ではないと考えられます(前掲の丸住製紙事件、品川工業事件など)。ただし、懲戒処分をしない(免じる)かわりに、始末書の提出を命じる場合は、無効とはいえない可能性があるようです(土田道夫『労働契約法』426頁)。

企業も、懲戒規定に該当しないのに、「始末書を書く」ことを命じられないから、懲戒規定に該当しない、懲戒処分を言われていないのに、「始末書を書け」と言われたら、書いて提出する義務はないと考えていいでしょう。懲戒処分及びその理由等を通知せずに「始末書を書け」との企業の実務対応が散見されるところですので注意が必要です。


始末書提出に応じない、非違行為との関係について


労働者が始末書提出に応じない場合に、業務命令による提出強制や改めて懲戒を課すことが可能かについては、否定的な考えが有力又は適切と考えられています(土田道夫『労働契約法』426頁、菅野和夫『労働法第11版』661頁など)。書かない、提出しないことで、上司との人間関係的、組織内でのぎくしゃくはありますが、このような始末書提出命令は、法的に断ることはできないかと問われれば、断ることができると考えられます。

もっとも、実際は、非違行為に該当するものがないのに、遅刻をしただけで、始末書の提出を求められたりすることも多く、労働者が何か企業のルールを守らないとすべて始末書を要求するパターンも多く見られるところです。ルールを守らない=非違行為とは必ずしも言えませんので、検討が必要だと思われます。また、企業側でも、労働者の行為が非違行為に当たるか否かが吟味されていない場合が多いように思えます。

もっとも、個々の事例では、「始末書を書け」の前後の行為にも注目して見る必要があります。たとえば、配転命令を拒否したら出勤停止、その後、「始末書を書け」と言われ、拒否したら解雇された事件では、配転命令を拒否することが懲戒理由に該当する行為か否かということもありますが、配転命令自体が人事権の濫用と判断されたため、出勤停止、始末書の提出という懲戒処分の根拠がないと結論づけられています(前掲、品川工業事件)。

では、懲戒処分の対象ではない行為に対し、懲戒処分の付随処分として管理者が不始末をした労働者に始末書を求めることは、許されるのでしょうか。この場合は、懲戒処分がダイレクトに関係しないので、命じた始末書提出に法的効果はなく、事実行為にすぎない始末書提出命令であるため、違法とは言えないと考えられています。言葉は始末書と言っていても顛末書や報告書の趣旨の場合もありますので検討が必要です。顛末書や報告書の場合は、業務命令の可能性も出てきます。

いずれにしても、始末書提出命令に労働者が応じないからといって、さらに提出を強要したり、不提出を理由にさらに不利益な取扱をしたりすることは許されないと考えられます(丸十東鋼運輸倉庫事件)。同事件は、「労働者の良心、思想、信条等と微妙にかかわる内的意思の表白を求める」ものが始末書であると述べています。この丸十東鋼運輸倉庫事件は、やや古い裁判例ですが、始末書について実に詳細に説いていて、実務上も有益です。


結局、始末書提出命令とは何か


比較的最近の裁判例である中央タクシー(本案)事件(徳島地判平10・10・16労判755号38頁)でも、「始末書の提出命令は、懲戒処分を実施するために発せられる命令であって、使用者の業務命令の範疇に属するものとはいい難い上、始末書の強制は個人の尊重という法理念に反する」と、かなり明白に述べています。懲戒処分としての命令と業務命令は異なることを示唆しているものとして参考すべきかと思います。

丸十東鋼運輸倉庫事件で述べられている「良心、思想、信条」と始末書の関係や中央タクシー事件でいう個人の尊重と始末書との関係は、労働者の内心は自由であること(憲法19条)から、始末書の強制が許されないことを意味していると受け止められると考えます。

こうして、裁判例を具にみると、特殊な事情がある場合は別として、始末書の提出は、懲戒処分としての命令であるというのが裁判例の考え方になっているようです。したがって、企業の始末書の提出命令が妥当なものであるというためには、労働者に非違行為があり、それが懲戒処分の理由に該当するものであることが求められると考えられます。こうした要件に該当しない「始末書を書け」は、拒否してもかまわないと考えられます。

ただし、上記で触れたように、懲戒処分に直接関係しない場合は、単なる事実行為と考えられるため、さらに企業は始末書の提出を強要できないので、応じなくてよいということになります。もちろん、就業規則の懲戒規定に始末書の提出が規定されていなければ、応じる必要はありません。

当然ながら、作業場のミスなどに対し、「始末書を提出しなければ処分する」と威嚇して提出を強要することは不当です(第一学習社事件・広島高判平3・10・24労判607号146頁)。

また、労働者が始末書を提出しないことで、企業が反省不十分と判断して、仕事外し的な扱いをしたことから、労働者が不眠症などにり患した例では、権限を逸脱し、人格権侵害にあたるとした例があります(日本郵便逓送事件・京都地判平16・7・15労判880号112頁)。実際に、こうした企業側の対応はあちらこちらで散見されます。態様や目的によっては、違法な行為に該当する可能性もありますので注意が必要です。

コンパクトに整理できる内容ではなかったため、少々長くなりました。最後までお読みいただきありがとうございます。参考になりましたら幸いです。

【2016.09.21 特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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