コラム

2016-09-16

★定年前の無期雇用と定年後の嘱託有期雇用の労働条件の相違が不合理とされた例

どんどん進む

嘱託有期雇用の賃金低下措置に問題を投げかける判決


 一般に、多くの企業では、一定年齢により定年となりその後嘱託などの有期雇用労働者として再雇用する制度を導入しているかと思います。高年法では、㋐定年を無くす、㋑定年を65歳以上に延長する、㋒65歳まで再雇用(継続雇用)するのいずれかの措置をとることを規定しています。措置としまして実務的に多くみられるのが㋒になります。

㋒の措置を取る場合、一般に賃金体系や支給項目の見直し、賞与や退職金の支給に関する見直しを行うのが通常です。企業の実施する施策としまして、処遇を下げる措置をとることが当然のように行われているのが現状です。

そんな企業の措置傾向に問題を投じる判決が2016年5月にありました。定年前の正社員と定年後の再雇用(有期雇用)社員との労働条件格差は不合理であるとの判決です。

事案及び判決の概要


 従業員66名の運送事業を営むY(被告)を定年退職した後に、期間の定めのある労働契約(有期雇用)を結んだXら(原告3人)が、Yに対し、Yの一般の就業規則等による賃金と実際に支給された賃金との差額の支払を求めました。請求理由は、期間の定めのない労働契約(無期雇用)で働く社員とXらとの間に不合理な労働条件があるとして、労働契約法20条により有期雇用は無効であるというものです。

 原告ら3人は、撒車の乗務員として21年から34年Yに勤務し、定年退職しました。
 Yの定年後再雇用制度は、定年60歳で、嘱託社員就業規則において嘱託契約の内容は、本人が継続勤務を希望し、Yが必要と認めた者で、嘱託契約は期間を定めて締結、契約期間は1年以内、給与は嘱託社員労働契約に定める、賞与、臨時給与、退職金は支給しない、嘱託社員というときは、引き続き撒車等の乗務員として勤務する従業員とするというものでした。

労働条件を決定するためにYの労働組合とYは幾度か団体交渉を行いました。Yは再雇用者の賃金水準が定年前の75%程度になるとして変えませんでした。最終的にXらは、契約しなければ賃金が支払ってもらえないこと、雇用契約書を提出しないと就労させないことなどとのYの姿勢から、賃金等の労働条件には同意できないが、今後も是正を求めることを条件に、再雇用契約書にやむを得ず(仕方なく)同意しました。なお、再雇用後でも、業務の都合で勤務場所及び担当業務を変更することがあると定められていました。

 裁判所は、本件の有期労働契約は、正社員の労働契約の賃金と相違しているから労働契約法20条の適用があるとして判断しました。まず、今回の労働条件の相違は、期間の定めの有無に関連して生じたものであるとしました。次に、この相違の合理性を判断していますが、有期契約労働者の職務の内容が無期雇用労働者と同一であるのに、重要な労働条件である賃金の額について、相違を設けることは、相違の程度にかかわらず、正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れないと言っています。

特段の事情について、労働政策研究・研修機構の調査結果を根拠に、定年後の再雇用で賃金が3割程度引き下げられているとのYの主張は、企業一般に広く行われているとまでは認められないとして否定しています。

今回の賃金の差額は、基本給だけでも、正社員の年齢による最低と最高の年間賃金の差である64万円よりも大幅に上回り、正社員は基本給が年数により増額されるのに対し、Xらは変動しない。そのうえ、正社員には退職金が支給されるが、Xらには支給されない。加えて、Yも、正社員の賃金水準が同業他社に比べて高いことや老齢厚生年金の存在することから再雇用の労働条件を決定したと述べていることから、定年後再雇用制度は、賃金コスト圧縮の手段として評価されてもやむを得ないと判断しました。

なお、Xらが理解して契約書に署名捺印したことをもって、特段の事情があるとは認めませんでした。結果、労働条件について、正社員の就業規則その他の規定が適用になるとしています。
(長澤運輸事件 東京地判平成28年5月13日労判1135号11頁、労働判例ジャーナルNO.52)

今後の留意点


 本件は、定年前後で職務内容が同じ場合の無期雇用と有期雇用の労働者の労働条件の相違について、労働契約法20条が適用された裁判例として貴重です。ちなみに、労働契約法20条は、有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違が期間の定めのあることにより、「不合理と認められるものであってはならない」と規定しています。労働条件の相違は、職務内容、配置変更の範囲その他の事情を考慮してと規定しています。

本件は、現在、高裁で争っていますが、本判決の考えが影響するようなことになりますと、有期雇用と無期雇用で職内容等が違わない場合、労働条件を見直す必要がでてくると考えられます。

また、定年前の無期雇用と定年後の有期雇用の労働条件の相違の問題に労働契約法20条が適用された本件のような例が出てくる状況を踏まえますと、再雇用企業の嘱託再雇用規程を変更する必要が出てきます。賃金削減を目的とした有期雇用での再雇用は今後注意が必要になると考えられます。今後の裁判の動向に注目したいと思います。

【2016・09・16 特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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