コラム

 公開日: 2013-11-16 

◆退職追い込みの違法性

雇用の現場で、退職への追い込みが繁盛しているようです。もちろん歓迎できる話ではありません。ここ最近目にしたニュースだけでも、リコー事件の地裁判決、オリンパスの配転命令、IBMのロックアウト解雇など後を絶ちません。

こうした事件を具にみると企業側の追い出し、締め出しの意図が見えることに、大きな危惧を感じます。このままでは、企業のイメージダウンは必死となる日本社会になりそうです。

今回は、リコー事件を素材に何が問題なのか法的問題の詳細をみてみましょう。リコー事件は、大手精密機械メーカー「リコー」の40代と50代の男性社員2人が訴訟提起したものです。

2人は製品開発などを手がけていましたが、おととし、業績の悪化で人員削減を進めていた会社側から、希望退職を勧められ、これを断ったところ子会社への出向を命じられたことについて、自主退職を促すという不当な目的に基づくもので人事権の乱用だとして出向命令の無効などを求めたのです。

男性は、20年余りにわたって電子回路などの開発を手掛けてきており、取得した特許は100を超え、業績が評価されて何度も社内表彰を受けています。会社は、2011年5月、業績の悪化でグループ全体およそ1万人を削減する計画を打ち出し、男性はその2か月後に「退職金を上積みするので希望退職してはどうか」と勧められました。これを断ると「残るのであれば意に沿わない仕事になるだろう」と告げられ、その年の9月に子会社への出向を命じられた。男性はなぜ自分が希望退職の対象者に選ばれたのか会社側に尋ねましたが「人事のなかで総合的に判断された」という説明で、具体的な理由などは示されなかったのです。この男性のように希望退職を断って出向や配置転換となった社員はグループ全体で152人に上ったということです。男性は出向後、物流センターで働くことになり商品にラベルを貼ったり、段ボール箱に詰めたりする仕事に変わった。倉庫で、回収品などを段ボールから出して仕分けする肉体労働であり、空調もない過酷な労働環境だったとのことです。

東京地裁(11月12日判決)は、人員配置の見直しなどで人件費の抑制を図ろうとすることは「一定の合理性がある」としつつ、「出向先は立ち仕事や単純作業が中心で原告のキャリアなどに配慮したものとは言い難く、身体的、精神的にも負担が大きいと推察される。原告が自主退職に踏み切ることを期待して行われた出向命令とみられ、人事権の乱用だ」として出向命令は無効だという判断を示しました。

今回の判決に関しては、エフピコ事件(水戸地下妻支判平11・6・15労判763号7頁)が参考になります。この事件は、会社の分社化にともなって剰員になった労働者に対して、転勤義務のない他の工場へ転勤を命じ、「転勤に応じられないのであれば年内にやめろ、自己都合での退職届を出せ」等と、虚偽、強迫的な言動で退職に追い込んだものであるとし、「労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備」し、「労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様での人事権の行使を行わない配慮義務に反する」と判断されています。

このエフピコ事件の地裁の判断は労働者を退職に追い込むことを判断している点で評価できますが、リコー事件では、「自主退職に踏み切ることを期待して行われた出向命令」を人事権の乱用と判断していることで評価できます。

このような事案の場合、こうした職場環境を作出した会社の責任として、職場環境配慮義務違反が問われることにもなります。退職への追い込みが目立ってきている雇用社会では、違法性を問われずに行うことは難しく、企業には紛争化しやすい大きなリスクが生じることになりそうです。

【2013.11.16 特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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