コラム

2012-12-19

パワハラを理由とする損害賠償請求が認められなかった例

このコラムで初登場のパワハラ事案のご紹介です。近年はパワハラ訴訟が増加傾向にあります。新聞朝刊でも報道されておりましたが、少し前にも、国は、パワハラに関する企業と従業員の初めての調査報告書をまとめて発表しています。

⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002qx6t.html

パワハラは、相談等をたくさん頂戴している領域ですが、スムーズな解決となると困難を極めることになるケースが多々あります。今回ご紹介する裁判例もパワハラを立証することの難しさを示しているものと言えるものです。

被告は、化粧品原材料の販売を主たる事業とする会社です。原告は、被告に期間の定めのない雇用契約で採用され、業務部に配属された従業員です。

原告は、パワハラ行為等によって、就業不能に陥り退職を余儀なくされたことにより、治療費等、休業損害ないし逸失利益及び慰謝料等の損害を被ったとして、安全配慮義務違反ないし不法行為に基づいて、損害賠償を求めたものです(X社事件・東京地判平24・4・27)。

本件における原告のパワハラの主張は、
第一に、G課長らから女子更衣室に侵入したとの噂を立てられた。この事件の処理にあたったC部長らは、「D部長が謝罪し、朝礼時に説明し注意を促すが、噂を流した者の特定や事情聴取を行わない」としたことであった。このことの回答を原告が即答しないでいると、「これ以上やるなら君の将来にも影響がある」と、承諾しなければ待遇において不利益が課されることをほのめかした。

第二に、その後、被告は、労働基準監督署の立入検査を受けたが、原告が労働基準監督署に通報したと疑われ尋問されたことであった。労働基準監督署の通報の疑いをかけられた件に関しては、その後も嫌がらせをうけることになった。

第三に、C部長が行った残業説明会においても、原告に「秒数も書いたら」「よく考えろ」「あなたに責任をもって仕事を与える自信がない」などの嫌がらせ発言を受けたことであった。

裁判所は、
第一のパワハラについては、噂の存在を裏付ける客観的な証拠はないとして、原告の主張が認められなかった。

第二のパワハラについては、人事評価においても被告は、原告の短所を指摘しつつも良いところを積極的に評価したり、原告を主任に推薦するなど配慮や教育指導を積み重ねてきた経緯などから、原告の立場や将来等を憂慮しての発言であったとした。また、労基署への通報内容には総務部の社員でなければ知り得ない情報が含まれていたことが明らかであることから、原告を通報者と決めつけてのことではないとした。

第三のパワハラについても、原告を積極的に評価し、主任に推薦などの配慮をしていること、C部長の「・・・今後の成長のことも考えて言っている・・・」の発言から、指導的発言とみることが可能と判断した。

原告のパワハラの主張は認められなかったのです。立証がされていない点が多いことと会社側のそれまでの原告に対する評価などから配慮があったことで、裁判所が、原告に嫌がらせをしているとはとらなかったことが大きかったようです。

いずれにしましても、パワハラは、よほど明らかな証明がある場合以外は、法的に認められることは非常に難しいと言えます。本事案では、会社側の原告に対する普段の態度等が指導的であったことが明らかになったことも判決に影響しています。この点は、パワハラを主張されても会社が大きなリスクを背負うことを防御する王道のように思えます。

ただし、本事案を見る限り、場面場面での会社側の上長の言動は、誤解を生じかねないあいまいなものとなりがちであるとも言え、従業員への言動に留意することはパワハラを考えるうえで、非常にキーになるところです。

【2012.12.19 特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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