コラム

2012-12-11

退職した従業員による時間外割増賃金請求

今回は、おもしろい事案をご紹介します。割増賃金の事案という点では普通なのですが、割増賃金の算出までの道のりが中小企業の現場で非常に参考になるものです。

本件は、被告と雇用契約を締結して勤務していた原告2名が、その退職後、被告に対し、在職中である平成18年10月から平成19年6月までの間(本件請求期間)に行った時間外・深夜・休日勤務に対する時間外・深夜・休日勤務手当(時間外手当等)及び付加金の支払を求めた事案です(スタジオツインク事件・東京地判平23・10.25)。

被告は、8ミリ及び35ミリフィルムを使用する記録映画、テレビコマーシャル、ピーアール映画当等の企画、制作等を業務とする会社です。原告は、インフォマーシャル(商品の信頼を高めるための映像によるコマーシャルメッセージ)制作業務に従事してきました。

被告は、請求期間中及びそれ以前のタイムカードを原告に開示したのですが、原告らのタイムカードが存在しない月、存在していてもほとんど始業時刻、終業時刻の打刻のない月がありました。

また、原告らは、上記タイムカードのほか、被告に対し、日時、時間、毎月の作業内容を記録した月間作業報告書を経理担当職員に提出していました。

しかし、被告は、原告らから提出を求められても、会計処理が済み次第処分しているため存在していない、もしくは、原告らが作成していないなどとして、本件訴訟においてこれを提出しませんでした。

裁判所は、「時間外労働を行ったことについて・・原告が主張・立証責任を負う」とし、「労基法が時間外・深夜・休日労働について厳格な規制を行い、使用者に労働時間を管理する義務を負わせているものと解される・・・労働時間を管理すべき使用者側が適切に積極否認ないし間接反証を行うことが期待されている・・・使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算定することが許される場合もあると解される。」と述べています。

本判決では、被告の主張が不自然であること、また、被告の別件訴訟の提起(平成20年)との関係で証拠を保全しておくのが通常であることから、月間報告書の存在が認められました。結果、推計計算の方法により労働時間を算定する余地を認めるのが相当であるとしました。

さらに、労働時間管理の資料として月間作業報告書の作成を行っていたこと、タイムカードの打刻がなかったのは、仮編集作業などに関し徹夜作業であったためであること、管理職については時間外手当が支給されないという認識の下タイムカードを打刻しなかったという事情があることなどからタイムカードの打刻がないことで労働時間の推計が許されないというのは相当ではないとも判断しています。

本判決では、労働者の立証がなくても、使用者に労働時間管理の義務か課せられているところ、使用者から労働時間に関する資料が提出できない場合は、公平の観点から、労働者が主張する合理的推計方法によることも認められるとした点が特徴的です。

企業実務としましては、労働時間管理の義務が使用者にある点を厳格に受け止めつつ、管理資料を第三者に提示できるレベルでしっかり整備・保存することが肝要でしょう。労働時間の管理は非常に手間のかかる作業です。ゆえに、意識を確かにしなければ管理がルーズになってしまうことになりかねません。

今回ご紹介しました裁判例のように、割増賃金の計算にあたって、労働者の主張が認められることもありうることを留意しておきましょう。

【2012.12.11 特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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