コラム

 公開日: 2012-11-29  最終更新日: 2012-12-01

契約期間中の離職を理由とする損害賠償請求

今回ご紹介する裁判例は、従業員が期間満了前に離職したことで、会社側が債務不履行による損害賠償を請求したものです。

会社は学習塾を営み、従業員との間で従業員を講師とする雇用契約を結んでいました。しかし、従業員が、契約期間満了前に離職したことで、会社に損害が発生したとして8万8960円の支払を求めたのです(アイネック事件・東京地判兵23・11・28 一部認容)。

従業員が、契約期間満了前に労務提供を拒絶したわけですが、裁判所は、従業員に新しい就職先が決まったために、本件講師契約に基づく労務提供意欲が低下した、言い争い後の経緯によって生じた心理的負荷とが相俟って労務提供意欲を喪失したと評価しました。

以上から、従業員に過失があるとし、債務不履行の成立を認めたのです。一方で、8万8960円という少額の損害賠償金額については、従業員の労務提供拒絶に際し支出したポスティング作業に係る5万円、緊急の採用手当等としての3万8960円の費用として認められています。

この8万8960円は、合理的支出の範囲内であり、原告従業員の労務提供拒絶と相当因果関係がある損害であることを理由に認められるとされたものです。

会社側の緊急の講師募集の必要性が高く、好条件の講師を得る目的での一定程度の支出を行う必要性が認められたことから、労務提供拒絶により無視し難い損害の発生が見込まれることが認められての損害賠償請求権の認容となりました。

ところで、本件では、会社の従業員に対する言動の問題点が指摘されています。裁判所は、従業員の履行拒絶の要因が、精神疾患を生じさせる程度の心理的圧迫を生じさせるほどの言動にあったと評価しています。

この評価と、従業員の業務内容、賃金、契約期間等の契約内容、従業員の年齢などを考慮すると、損害額を従業員にだけ課すのは不相当であるとし、損害額の約3分の1である3万円のみが賠償額であると結論付けされました。

企業実務で考えますと、形式的には、契約期間満了前に契約解除した従業員に「けしからん」となりそうですが、肝心なのは、そうなるに至った理由が問われるために、会社としましては、契約解除に至ったプロセスを十分にわきまえておきたいところです。

【2012.11.29 特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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